第3章 塞翁が馬 〜銀時篇〜
「おーい。本当に大丈夫か。何、そんなにびっくりしちゃったの。別にぶつかった位でそんなに驚かなくても…。はっ、まさかこの天パか!この天然パーマでびっくりしちゃったのか!あまりにも見事にくるっくるっしてっから驚いたのかコノヤロー!これだからサラッサラヘアーの奴らは駄目なんだよ。畜生、羨ましい!」
その後も長々と己の髪へ対する願望を口にしたが、正直、言った内容は覚えていない。愚痴は口に任せておけば永遠に回る自信があるので、それは放っておいた。けれど、内心は焦りでいっぱいだった。記憶がない事などあるのだろうか。たしかに自分も中学にあがるまでは記憶は無かった。しかし銀魂高校へ就任し、3年Z組を受け持つ頃には、江戸でさんざん一緒に暴れ回った連中共々、過去の記憶を取り戻していない奴は一人もいなかった。この娘だけ例外だというのか。
くだらない愚痴を聞いていて緊張の呪縛がとけたのか、その子は言葉をようやく発した。
「ぁ、すみませんでした。考え事をして、いて。突然ぶつかったので、少し、驚いてしまっただけです。」
「お、やっと喋ったな。まあなんともないなら良いんだが。それよりも一人で帰ってんのか。まだ明るい時間帯とはいえ、ここら辺は不良が多いから今度からは誰かと一緒に帰ってもらえよ。」
この様子だと本当に記憶がないらしい。かなり凹んだが、とりあえず大人として、否、恋人として忠告したい事は忠告する。本当は家まで送りたいと思っていたが、今それを提案してもあちら側にとってこちらは初対面。余計な警戒をされてしまうかもしれない。残念に思いながらも、銀時は自分の欲を自重する。
「あ、いえ。今日は偶々なんです。いつも一緒に帰っている友達が彼氏とデートしに行ったので。でも明日からは普通に彼女と帰れますので。お気遣い、ありがとうございます。」
「そうかい、若いのは良いねえ。」
ほんと、若ぇのは羨ましい。少なからず、自分の愛する人と常に過ごせる年代であるお友達とやらに妬ける。そう思い、少しでも自分を覚えていて欲しくて、銀時は左ポケットにある飴玉を探る。