第3章 塞翁が馬 〜銀時篇〜
やはり良い年して冒険するもんじゃない、と十分ほど彷徨い続けた銀時は後悔した。冒険といっても当然見えるのは家と家と家、そして家だ。別に大して面白みのある物はない。いつもの道を歩めばもうとっくに準備室に辿り着いて大量に買ったお菓子を貪っている頃だろうに。ため息を吐き、ダラダラと足を進める。
大きめな十字路に差し掛かった時、突然柔らかい何かにぶつかった。ぼーっとしていた為に、人が近くにいる気配に気づかなかったらしい。
「んあ、大丈夫か。」
お互い軽くぶつかっただけなのだけれど、一応、銀時は安否を確認してみた。制服からしてこの近所にある私立吉田高校に通う女子生徒のようだ。少しよろけたようだが、体制をすぐに立て直した後、その女子生徒は顔をあげた。
顔を見た瞬間、銀時は目を疑うほかなかった。長い間ずっと探し続けても見つける事の出来なかったその子が目の前に居たのだ。光沢のある柔らかい髪も、健康的な肌も、純粋さを失わない双眸も、何度も愛しさを伝える為に重ねた唇も、何もかもがそのままだった。他の連中は銀魂高校で、もしくは他校で会えたというのに、この子だけは銀時の前に現れなかった。やっと逢えた、と、それこそ良い年して跳ね回りたい位には舞い上がっている己の心を自覚する。何から話そうか。やはり長い時間を埋め合わせるように愛を呟こうか。抱き締めてキスをして、温もりを確かめ合うのも良い。いや、一応、彼女の反応を待ってからでも遅くはない。暴走しかける思考を銀時はなんとか一度落ち着かせる。そして意識を彼女に向けた。
しかし、どうも彼女の様子が可笑しい。目を丸くしている事から、驚いているのは明白だった。でも久しぶりに再会した恋人に対する驚き方ではなさそうだ。再会に喜ぶのも束の間、この子には記憶がないのかもしれない、と凹む可能性が脳をよぎる。とりあえず、この気まずい沈黙を破らねば。