第2章 塞翁が馬
「あのなぁ、んな思い出して欲しくもねぇくだらない記憶、何で思い出すんだ。」
「くだらない記憶だなんてっ…!」
今まで悩み苦しんでいた自分を否定されたようで目が涙で滲む。
「くだらねぇよ。酒やめさせる為に六股かけたなんてドッキリ仕掛けやがって。俺がどんな思いで長屋で過ごしたことか。」
意外な単語に私の頭は真っ白になった。
「どっきり……。」
「そうだ。まあ部分的にしか記憶がねぇんだろ。そこだけ思い出しちゃあ誤解するのも無理ないのかね。」
ったく、凹むんですけどー。そう言う銀時さんに対して、私は罪悪感を感じた。少なからず、彼は望んであの女性とともに暮らしていたわけではないようだ。
「……ごめんなさい。変な誤解をしていたみたいで。」
謝ったものの、どうすれば良いか分からず、俯いてしまう。あの女性が彼の恋人でない事実に安心したけれど、私の誤解で生んだ妙な空気に泣きそうになる。それに、目的はドッキリでも、彼女の方は本当に幸せそうな顔だった。複雑な心境には変わりなかった。そんな私を見た銀時さんは、少し腫れた左頬に気遣ってか、叩かれなかった右頬にそっと手を添え、私の顔を上げさせた。真剣な表情に思わずどきりとする。
「なあ。お前の様子からして、お前が俺にとってどんな存在なのか覚えてないんだろ。」
「私が、銀時さんにとって…。」
一体どのような存在だと言うのだろう。好奇心で先を聞きたいが、望まない答えが出れば、確実に心が折れる。もう情けない姿をこれ以上見せたくないというのに。どうすればいいのだろうか。
勝手に一人で葛藤していたが銀時さんは言葉を続けた。
「好きだ。」