第2章 塞翁が馬
しばらく泣いた後は、嗚咽を抑えるように深く呼吸を何度か繰り返す。そして、銀時さんの胸元に手を置き、体を離そうとする。しかし彼はびくともしなかった。
「銀時さん、離してください。」
「なんでだよ。」
少し不機嫌な声で返ってきた事に戸惑う。
「なんでって…。その、彼女さんに悪いですし……。」
間が少しあいた後、はあっ!?、と素っ頓狂な声で叫ばれ、驚きで身を縮ませてしまった。
「ちょっ、おまっ。全部思い出したんじゃねえのかよ! さっき泣いてたのは、きゃあ銀さんに格好良く助けられてうれしー、的な涙じゃなかったの。つーか彼女って誰、つか、何。え、今の俺ってどういう認識されてんの。」
彼も私も互いに言っている事がよくわからず、二人して頭に疑問符を浮かべる。とりあえず、私の方から一番大事だと思った事を口にしてみた。
「記憶は、全部もどってません。」
そう言えば、何かショックを受けたのか、銀時さんの表情が固まった。
「その、この前会った時から、記憶が断片的に夢で見るようになったんです。」
「夢で、か。」
「はい。夢です。」
完全には納得出来ないようだが、わかった、と呟いて彼は私に次の質問を尋ねてきた。
「じゃあ彼女って何。どこで何を見てそんな事思ったんだ。」
正直、胸の苦しみがよみがえりそうなので答えたい質問ではなかったが、素直に返事をする。
「夢の中と、さっき、駅前で見ました。綺麗な金髪の女性ですよね。」
それを聞いた銀時さんは顔を引きつらせた。
「え、ツッキーなの。別にあいつと誤解されるような事してなくね。ラッキースケベは確かに何回かあったような気がするけど、それだけじゃね。てっきり付き纏って来るさっちゃんの方だと思ってたんだけど。」
ぶつぶつと何故私が誤解をしたのかを一人で悩み始めた。そんな彼を見て、私は理由を述べる。
「今朝見た夢では、えと、ツッキー、さんと長屋へ入ってくのを見ました。」
長屋という単語を鍵に、銀時さんは記憶を探り始める。数分程の沈黙の中にいただろうか。そのうち合点がいったのか、銀時さんは深いため息を一つ吐いた。