第2章 塞翁が馬
どすっ、と重い音と共に後ろから不良の気配が消えた。
「なっ、誰だてめぇ!」
目を恐る恐る開けば、前に居た不良の表情が驚きに染まっているのが見えた。誰かに助けられたのだろうか。そう思えば体から力が抜け、地面に座り込む。
「誰だって。」
一人目の不良を倒した人物が私を横切って、二人目の不良に歩み寄りながら問いを繰り返す。
「そんなもん、てめぇが知る必要ねぇ。」
「ひっ」
後ろ姿からでも伝わる気迫に、圧倒された。昔から何一つ変わらない、仲間想いなこの人の怒りは、まさに「夜叉」を連想させるものがある。この殺気を直に受けている不良はおそらく蛇に見込まれた蛙と同じ気持ちだろう。後ずさりながら逃げようとする不良の頭を彼は片手で押さえ込んだ。
「てめえらアレだな。この前も神楽にも手ぇ出そうとしてた連中だろ。あいつに殴られたから懲りたもんだと思ってたんだが、」
言葉を途中で切り、ぎしぎしと不良の頭を握りつぶすように手に力を入れていた。痛みに不良が呻き声をあげる。
「まだ痛めつけ足りねえか。」
一層低い声で呟かれた言葉に、不良が涙を浮かべた。それを見た彼は、不良の頭を投げるように放し、仲間を連れて立ち去るように命令する。言われた通りに不良は気絶している仲間を抱え、情けなく走り去ってゆく。