第2章 塞翁が馬
今話題の映画である『となりのペドロ』を見終えれば、感動で胸がいっぱいになっていた。前半は正直、魅力的なシーンは少なかった。主人公のペドロがパンツ一枚の姿で登場した時は、映画を最後まで見れる自信を奪われた。けれど後半は驚く程の展開で、胸のどきどきが止まらなかった。前半のつまらないシーンも実は後半のクライマックスへ持って行く状線で張り巡らされていたのだ。ペドロが人生をパンツ一枚で過ごす意外な真実にも涙を誘うものがあり、ただただ心温まる作品に出会えた事に感激した。
映画の後は周辺にあるお店でウィンドウショッピングを楽しんだ。いつもなら友達とわいわい会話を楽しみながら見て歩くが、今日は一人でゆっくり見たいものが見れたので違う視点で買い物を楽しめた。数件の店を回って、最後にと雑貨屋へ脚を運ぶ。店内には女の子が好きそうな、可愛らしいぬいぐるみや日用品の品々が棚に並んでいて、目を楽しませてくれた。少し歩き回れば小さなオルゴールが目に入る。手のひらにちょうど乗るサイズのそれは、シンプルな白い箱に空色の線が繊細な模様で描かれていた。手に取ってじっくりオルゴールを見ていると、唐突に自分の行動に呆れ返ってしまった。
やだ、私ったらまたやってる。
銀時さんの事を思い出した日から気づいた事がある。それは今のように、私が手に取る品々がどことなく彼を連想させるような物が多い事だ。白地に青い線。それは銀時さんが常に纏っていた着物の模様である。銀に赤は、彼の異色で美しい銀髪に瞳。最初は記憶を取り戻して彼の影を追うようになったのかと思ったが、先日改めて部屋を見回せば、私の所持している物の殆どがどちらかの配色に当てはまっていた。無意識に私はもう長い間、彼の事を追い求めていたらしい。記憶はなくとも、私の魂は潜在意識下で銀時さんを探していたのだ。
今朝の事がなければ、きっと手放しで喜んでいたのだと思う。たとえ頭では覚えてなくとも、私の魂は彼の事を覚えていたのだと。でも、もしもあの女性が銀時さんの想い人ならば、そして過去の私がそれを知っていたのならば、今の私は未練がましく、惨め以外の何者でもない。忘れなきゃ。彼に恋した記憶を美しいままに封印してしまえば良い。そして現世で新たな出会いをすれば良いではないか。
私はそっとオルゴールを棚に戻し、雑貨屋を後にした。