第2章 塞翁が馬
部屋に置いてある姿見を覗き込みながら自分の格好に満足する。普段は箪笥の奥に眠りっぱなしのワンピースを取り出して着てみた。淡い浅葱色のそれは、全体的にふわりとした印象の、かわいらしいデザインである。去年、偶々お店で見かけて珍しく一目惚れした洋服だった。裾が膝上までしかない為、恥ずかしさから滅多に着る事はなかったが、今日みたいな日には気分転換として役立ちそうだった。
白いハンドバッグの中身を再確認し、出かけるのに必要な物は全て揃っているのがわかれば、私は玄関へと向かい飴色のサンダルを引っ張りだす。ふと靴棚のを見上げると、白いパンプスが目に入る。そういえば、これも持ってたんだっけ、と思いながらそれらを手に取る。前に一度履いた事があったが、その時は長時間歩き続けて痛い思いをしたのを良く覚えている。ヒールは二センチ程しかないが、履きなれないそれは容赦なく両足を痛めつけた。アキレス腱も最後には擦り剥けて数日間はひりひりしていた。良い思い出はないものの、捨てるには勿体なくてずっと取って置いていたのだ。
でも、今日位は良いかもしれない。映画館や喫茶店でゆっくりしていけば、脚を痛める事はないだろう。それに、バッグとお揃いの色になってきっと見た目も良くなる。
一度決断すれば行動は早かった。サンダルは靴棚へ戻し、部屋へ戻りパンプス用の靴下を履く。玄関へ戻り靴を履いてバッグを腕にかければ、出かける準備は全て整った。鍵を閉めたのを確認した後、私は近くの映画館へと向かった。