第2章 桂小太郎《愛し言の葉》※攘夷戦争時/シリアス/夢主自害ネタ
お前を見つけたのはあの天人の屋敷だった。
廃墟と化した屋敷の中には、乾いたどす黒い血の跡が点在している。
その中で、お前は胸から血を流し、壁にもたれていた。
「何を……している」
お前は虚ろな瞳で俺を見上げた。お前と出会った、あの時と同じように。
だが、その瞳には精気が感じられた。人形ではない、血の通った人間の瞳。
「何故、このようなことを……」
胸に布を押し当てる。血が止まらない。
苛立つ俺の耳に、聞いたことのない声が届いた。
「どうして、来てしまったの」
それは確かに、目の前から聞こえた。
吐息交じりの掠れた声。絞り出すような微かな声。
紛れもない、お前の声。
「声が、出るようになったのか?」
お前は首を振った。
「ずっと、喋れた」
喋れなかったのではなく、喋らなかった。
「言葉なんて、信じない。嘘ばかり。ここに連れて来られた時も……騙、されて……」
力を失くし、お前の首が俺の腕に落ちて来た。
血の気の引いた、青白い顔。だが、まだ鼓動は感じられた。
「しっかりしろ!」
その目はうっすらと開き、俺を見上げた。
その視線は俺の目を捉えてはいなかった。
既に視力を失いかけているようだった。
「一突きで死のうとしたのに……失敗しちゃった」
小さく笑ったお前の顔。初めて見る、お前の笑顔。
初めて見せた、人間らしい表情だった。