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~あさきみじかしゆめ~ 銀魂短篇集

第2章 桂小太郎《愛し言の葉》※攘夷戦争時/シリアス/夢主自害ネタ


 俺の手元になど置いておかなければ、お前は幸せになれたのだろうか――


《愛し言の葉》


 攘夷戦争も終焉に迫りつつある頃だった。
 幕府はとうに城を明け渡し、戦は無謀なものと化していた。
 いくら目の前の敵を倒しても、最後の悪足掻きでしかない。
 そんなことは、俺達にもわかっていた。
 わかっていても、この歩み、止めるわけにはいかなかった。
 天人の屋敷に押し入り、奴等を斬り殺して行った。
 死体の山となった屋敷の奥の一室に、お前はいた。
 一体、いつから捕われていたのか。今となっては、知る術はない。

「お主……名は何という」

 顔と体中に浮かぶ青痣。裾の短い布切れ一枚を羽織る姿。
 奴等の喰いものにされるために置かれていたことは明白だった。
 あの時お前は、精気の感じられない瞳で俺を見上げた。

「俺は桂小太郎という者だ」

 お前は口を開かなかった。

「もう、何も心配はない」

 伸ばされた俺の手を、お前は掴まなかった。
 お前は俺の首に腕を絡めた。柔らかい唇が、俺の首筋に埋められた。
 そうやって自ら求めるように奴等に調教されたのだろうと思うと、痛ましかった。
 まるで人形――
 首筋を這う舌の感覚、細くしなやかな腕。押し当てられる胸の膨らみが俺の体を刺激した。
 俺は理性の保てるうちに、お前を引き剥がした。

「もう、いいんだ」

 肩に手を乗せ、真っ直ぐにその目を見据えた。
 恨みや憎しみすら感じられない、冷たい瞳に見えた。
 感情も、表情も、すべてを失ってしまう程の惨苦を受けていたのだろう。
 失くさなければ、生きていられなかったのかもしれない。
 あの時の俺は、そう思っていた。

 俺の所に来ても、お前は変わらなかった。
 精気の見えない瞳のまま、部屋の隅に座っていた。
 お前は一切、喋らなかった。だが、声には反応を示す。聞こえていないわけではない。
 過酷な暮らしの中で、声が出せなくなってしまったのか。
 それとも、言葉など無意味な生活の中で言葉を忘れてしまったのか……

 夜になると、お前は俺の床へと潜り込んで来た。俺の体中に、お前は紅唇を這わせた。
 何度、欲求に駆られそうになったかわからない。
 抱いてはいけない。家畜でも、人形でもなく、人間としての暮らしを取り戻させるために。
 そして突然、お前は姿を消した――
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