第2章 桂小太郎《愛し言の葉》※攘夷戦争時/シリアス/夢主自害ネタ
「もう、喋るな」
お前は小さく首を振った。
「言わせて……もう、最期なんだから」
お前は俺の腕を掴んだ。血の気の失せた、冷たい手。
今から手当てを施しても、最早……
「貴方の言葉には、嘘がなかった。貴方は純粋過ぎる。汚れ過ぎた私には、貴方の傍にいることが苦しかった」
荒い呼吸と共に言葉は吐き出される。
「でも……離れられない」
俺の手のひらに伝わる鼓動が、次第に弱まっていく。
「貴方がいなければ、私は生きていけない。でも、苦しいの……」
相反する葛藤から抜け出す方法は、こんな手立てしかなかったのか?
俺が抱かなかったことで、お前を苦しめていたというのか?
抱いていたら、お前はさらに深い闇へと落ちていたはずだ。ならば、どうすればよかったんだ――
お前は地面を探った。そこには、胸を刺したであろう短刀が転がっていた。
手探りで掴むと、その柄を俺に握らせた。
「何を、させる気だ……」
お前の鮮血で真っ赤に染まった俺の手は、震えていた。
あれは、もうじきお前を喪ってしまうという、恐怖から来る震えだったのだろう。
「私は、貴方の腕の中にいる時が一番幸せだった。だから……貴方の手で……」
毎夜、俺はお前を抱き締めた。
機械のように絡みついて来るその体を抱き締めながら、俺は何度も口にした。
――もう、いいんだ。もう、苦しまなくていいんだ。
強要された振る舞いなどもうしなくていい。
これからは、自分の意志で生きていける。何度も俺はそう告げた。
俺の元にいること自体が、お前を苦しめていたことにも気づかずに。