第14章 志村新八《嫁に来ないか》
「キスして」
目の前には、○○さんの顔。
「……は?」
今、何て?
僕の聞き間違いではないらしい。○○さんは目を瞑り、待っていた。
いや。いやいやいや。恋人の振りとはいえ、ない! これはない! こんなうまい話が……じゃなくて、よくない!
恋人でもないのに、こんなこと……。彼女はこの部屋に来る前、こう言っていた。
――依頼だけど命令じゃないから、嫌なことはしなくていいよ。
僕には拒否権がある。でも、嫌なことでは、決して嫌なことではない。
というか、キスくらい、○○さんにはどうってことないのか?
そんなに、親の決めた相手と結婚することが嫌なのだろうか。
というか、これで本当に破談になるのかも怪しいぞ。
僕がためらっていると、○○さんの唇が小さく囁いた。
――……嫌?
僕の鼓動は最高潮に達した。
理性を失うというのは、こういうことを言うのか。
僕は目の前の誘惑に負けた。それでも、軽く触れるだけ……のつもりが、
「……ッ」
○○さんは僕の頬から頭へと手の位置を変えた。
息苦しくなって開きかけた僕の口の中に、それは侵入して来た。
まさか……まさかでもなんでもなく、それは○○さんの……