第14章 志村新八《嫁に来ないか》
「恋人のパチ恵ちゃんです」
僕は今、○○さんの両親と、○○さんの縁談相手の前に出されている。
突然部屋で二人きりになり、突然女装させられ、真意を聞くことをすっかり忘れていた。
――嫁に来てほしい。
それは、恋人の振りをしてほしいということだった。
「なので、そちらの方とは結婚出来ません」
……いや、でもなぜ、女装?
○○さんの両親も、結婚相手候補の人も唖然としている。
突然縁談相手を連れて来る親も親だが、○○さんも○○さんで、僕の話は一切していなかったらしい。
いきなり女を連れて行って、ビックリしている間に話をうやむやにしようという魂胆だろうか。
「てことで、私はこれで」
早々と立ち去ろうとした○○さんと僕を、○○さんの母親は呼び止めた。
本当はただのお友達なんでしょ? 頼んだんでしょ? と、母親はいぶかしんでいる。
そうだそうだと、ようやく我に返った男二人も同調する。
三人とも、僕が男だということには気づいていないらしい。いや、気づかないもんなのか?
僕はそんなに女らしいのかと、頬を引きつらせてその様を見ていると、
「いで!」
突然、両手で頬を挟まれた。