第11章 土方十四郎《見つめる視線と睨む視線は紙一重》
煙草をふかし、土方は歩いていた。
その表情に段々と不穏の影が帯びる。
「チッ」
煙草を落とし、爪先で揉み消す。
つけられている。視線が背後を付きまとっている。
(……攘夷浪士か?)
土方は狭い路地へと入り込んだ。
背後の人物は少し迷った気配を醸したが、見逃さんとばかりに着いて来た。
「オイ」
土方は身を隠し、背後の人物の喉元に刀を突きつけた。
「テメェ、何者……だ?」
自らが向けた剣の先にある顔を見て、土方は思わず眉をひそめた。
そこにいたのは、まだ幼さを残す少女だった。
突然向けられた刃に、怯えるように唇を戦慄かせている。
土方は一瞬、面食らったが、すぐに気を取り直す。
「テメェ、攘夷浪士の回し者か。何でつけ回してやがった」
土方は刀を引かなかった。
見た目が少女でも、それは真選組を欺こうとしてのことかもしれない。
何事も疑ってかからなければ、命取りになりかねない。
少女は着物の裾に手を入れた。
土方の目が鋭く光る。出されるのは、刃物か、拳銃か。
裾から引き抜かれた瞬間に、切っ先が手を掠めた。
ポトリと、まっぷたつになった箱が落ちる。
一個一個が小さいその中身は、むき出しの状態で地面に叩きつけられた。
「チョコレート……!」
泣き声のような、叫び声のような、そんな声を少女は上げた。
「チョコ、レート……?」
土方は頬を引きつらせた。
斬られた箱を見下ろしながら、少女はジッと動かない。
その肩が小刻みに震えているように見える。
嫌な汗が土方の額から一筋垂れた。
「オイ」
上げられた顔。
思ったとおり、目にはうっすらと涙のようなものが見える。
「バカ、オメェ、チョコの一つや二つ、何だってんだ」
少女は腰を屈めると、一つ、また一つと拾い上げた。
無言の圧力。土方は冷や汗を垂らす。なじられたり、叱責されたりするよりも罪の意識を感じる。