第11章 土方十四郎《見つめる視線と睨む視線は紙一重》
「ちょっと待ってろ! そこの店で一つ買ってやっから!」
土方は狼狽えながら少女を指さす。
「そんな必要、ありません」
今にも駆け出さんとしていた土方を、少女は制した。
バラバラになったチョコを拾い終わると、少女は立ち上がった。無言のまま、土方の横まで歩く。
「土方さんに渡すチョコを、土方さんが買ってどうするんですか」
目の前までたどり着くと、真っ直ぐに土方の目を見据えて言った。
「私が買って来ます。だから、ここで待っていて下さい。受け取って、下さい」
言い終わると、もう一度歩を進めた。
「待て」
土方は少女の腕を掴んだ。
反動で、幾つかのチョコレートがまた地面へと落下した。
それらは形がバラバラで、一見して手作りとわかるものだった。
「お前、名前は」
「□□、○○……です」
○○の目に、もう涙は見られなかった。
「○○か」
土方は○○の手にあるチョコを一つ掴み上げた。
「俺ァこいつで充分だ。洗やァ食えるだろ」
「食えません。溶けちゃいますよ」
「溶けねーよ」
「溶けますよ」
「溶けねーだろ。ここに込められた○○の想いは」
○○は目を二度程、瞬いたあと、頬を赤く染めた。
台詞のクサさに気づいたのか、ハッとしたように土方の頬と耳が染まる。
「見廻りの途中だ。俺ァもう行くぜ」
○○の手の中から掻っ攫うようにチョコを箱ごと奪うと、土方は○○に背を向けて歩き出した。
「それから」
立ち止まると、振り返らず、ぶっきら棒に言葉を付け足した。
「一ヶ月後に屯所に来い。飴くらいなら……用意しといてやる」
言うだけ言うと、またそそくさと歩き出した。
「必ず……必ず行きます!」
○○は笑顔でその背中に叫んだ。
(了)