第9章 山崎退《ツンとデレは4:1で》
最悪だ。
最高の一日にするはずが、最悪の一日だ。
ゴンドラは地上に向けて降下し続ける。
上って来たスピードよりも倍近く遅く感じる。
空気が、重い。重くて、痛い。
「非番なんて……」
床に目を向けたまま、俺は言葉を落とした。
「非番なんて、今度いつもらえるかわからないし、ずっと前から今日を楽しみにしていて……。攘夷志士なんて現れるかどうかわからないし、俺一人いなくたって、どうっていうこともないだろうし」
言いたいことが頭の中でまとまらないままに、気持ちばかりが先走って声に出る。
女々しくて、言い訳がましい。
○○は何も答えなかった。
俺は俯いているから、○○の視線がどこに向けられているのかも、表情もわからない。
沈黙のあと、○○の凛とした声が響いた。
「退がいなかったら、私は死罪になってたかもしれないんだよ。それでも、いてもいなくてもどうってことないの?」
顔を上げると、○○は俺を真正面から見つめていた。
○○との出会い。
攘夷派の仲間であるとの嫌疑が○○にかけられ、屯所に連れて来られた日のこと。
攘夷志士が会合で使っていた場所に何度も現れていた○○は、誤解から逮捕された。
でも、そこは俺がずっと張り込んでいた場所で、会合の中に○○がいなかったことを俺が証言したために、○○の無実が証明された。