第9章 山崎退《ツンとデレは4:1で》
「退がやっていることは、一見地味かもしれないけど、人を救える可能性だってあるんだから」
○○は鞄から毛糸の塊のようなものを取り出すと、ぶっきら棒に俺に差し出した。
「誕生日、おめでとう」
広げてみると、それは紺色のマフラーだった。
「まだ寒いでしょ。外でずっと見張りとかしてるんだろうし。私の時もそうだったし。だから」
○○は言葉を止めた。
「だから、今すぐそれ持って見廻りに行って来い!」
突然胸倉を掴み上げられると、扉に向かって投げられた。
俺は地面に尻餅をつく。遊園地のスタッフの驚いた顔が俺を見下ろしている。
いつの間にか、ゴンドラは一周を終えていたようだ。
「私はもう一周!」
○○は一日フリーパスを見せると、そのまま観覧車に乗り続けた。
今日の目的を果たせぬままに、○○の姿は離れて行く。
俺は立ち上がり、足早に遊園地を去った。
ここにいては、また○○に怒鳴られる。
いや、そんなことより、俺は早く任務に就きたかった。
俺がいなかったら、○○みたいに濡れ衣を着せられる存在があるかもしれない。
プロポーズは、また今度でいい。
クリスマスとか、誕生日とか、そんなものに頼らなくても、今ならいつだって言える気がする。