第9章 山崎退《ツンとデレは4:1で》
嫌な汗が背中を伝う。
電話の主は、一体、誰なんだ。
そんなことを聞ける雰囲気ではないことは、○○の表情を見れば明らか。
鋭い目が、俺に向けられている。
「退!」
電話が切られると、小さなゴンドラ内に○○の声が響いた。
狭い金属の壁に反射して、何度もエコーのように○○の声は俺の耳を貫く。
「は、はいィィィ」
思わず腰を抜かしそうになった自分を、我ながら情けなく思う。
「今日、非番じゃなかったの?」
「非番……だったんだけど、昨日急遽隊員総出の任務が入って、それで、遊園地を見廻り……みたいな」
口の中が乾く。
頬が引きつる。
「バァカ!」
○○は立ち上がり、さらに声を響かせた。
俺達の乗ったゴンドラは、いつの間にかに折り返し、地上に向かって降下していた。
「アンタ、自分の仕事なんだと思ってんの! 真選組でしょ! 幕府直属の組織でしょ! ちゃんと自覚持ちなさい!」
言うだけ言うと、○○は何事もなかったように腰を下ろした。
今までと同じような無表情で、夕闇に染まるオレンジ色の町並みを見下ろしている。
ただ、口元の微笑が消え、眉間に皺が寄っている。