第7章 万・真・桂《新しい一年はニギニギガヤガヤ始めましょい》
「すみません。迷子センターとかありませんか」
顔まで巻いたマフラーを下げ、○○は黒服の男に声をかけた。
その制服は、かぶき町の住人ならば誰でも知っている。悪名高い、武装警察真選組の制服だ。
「あ?」
振り返ったその顔は、親切なお巡りさんとは程遠い、目つきもガラも悪い男だった。
「お忙しい中、申し訳ないです。連れが迷子になりまして。迷子センターとかありませんか? 呼び出したいんで」
「ねーよ、んなもん。ガキだけでこんな時間にうろつくんじゃねェ」
てめーらみてーなのがいるからこっちは大晦日も休めねーんだと、男は文句を垂れる。
噂には聞いているが警察の風上にも置けない連中だと、○○は冷ややかな瞳を男に向ける。
「連れはガキじゃありません。三十路近い、いい大人です」
「あ? じゃあ迷子はテメェの方じゃねーか」
「私も――」
「あり? 土方さんじゃないですかィ」
私も大人ですと訴えようとしたその声を、横から出て来た男に遮られた。
「大晦日に仕事たァ、野暮なことしてやすねェ」
土方は小さく舌打ちした。
「そうだな。テメェらがこぞって休暇取らなけりゃ、休めたんだがなァ」
「何、人のせいみたいに言ってんですかィ。休暇願い出さない土方さんが悪いんでしょう」
「こういう時は幹部が率先して仕事引き受けるもんだろーが」
「誰も頼んでやせんぜ。お前らのために代わってやってんだって、そんな恩着せがましい風吹かせる上司は嫌われやすぜ」
まァ土方さんは何をしてもしなくても隊中からの嫌われモンだ、と憚りなく口にしたと同時に、
「副長ォォォ!!」
声を上げながら男が一人駆けて来た。
目の前の男とは型が違うが、その男も真選組の制服に身を包んでいた。
「あれ? 沖田隊長も!」
「うるせーぞ、山崎。今年中に殺すぞ!」
「ええ!?」
土方は山崎の胸倉を掴み、締め上げる。
沖田に向けられていた怒りの矛先は、何の関係もない山崎に向けられた。