第28章 土方十四郎《ハッピーバースデーの夜に》
「本日はご厄介になります」
土方に向け、○○は丁寧に頭を下げた。
「よい番組になるよう、全力で頑張ります」
「ならいいがな」
――一日真選組体験。
粗野で乱暴、荒くれ者の集まり。警察の名を笠に着て、やりたい放題の狼藉集団。
人々から色眼鏡で見られがちな真選組。
「子ども達との触れ合いを、テレビを通じて流すことでイメージを一掃してはどうでしょう?」
そんな風に近藤に提案したのは○○だった。
○○は大江戸テレビの新米キャスター。
子どもの日の持ち込み企画として、その提案は採用された。
「ゴリラ!」
「ゴリラ! ゴリラ! ゴリラ!」
甲高い声が耳をつんざき、土方は眉をしかめる。
傍らでは、近藤がちびっ子達に遊ばれている。
近藤自身はまるで意に介さず、脛を蹴られても股間を蹴られても、大口を開けて笑っている。
「コラ! 人を蹴っちゃダメでしょ!」
土方から離れ、○○は子ども達に近寄った。
やんちゃな子ども達はなかなか大人しくならないが、○○も本気で止めようとしているわけではない。
力のある子は今日の参加者にはいない。
近藤が痛がっているなら本気で止めるが、じゃれているだけならば問題はない。
○○と近藤は『スナックすまいる』で出会ったという。
○○が水商売の世界を取材していた際に、近藤が客として来店していた。
なぜか二人は意気投合し、屯所にも度々訪れるようになった。
土方は息を吐く。
妙を諦め、○○に乗り換えれば、近藤にも結婚のチャンスがあるのではないか。そう思える。
それ程に、○○と近藤は親しげに見える。