第30章 高杉晋助《仏桑花》
「○○みてーだな」
「え?」
どういう意味だろう。
「色のない奴らは見えやしねェ。俺の目に入るのは、ひときわ色づいたお前だけだ」
仏桑花を髪に挿す。
ほんとうに、どういう気まぐれなんだろう。
ガラじゃないのに。
「手向け花……ってのは、縁起が悪いか」
「……江戸に戻るの?」
「ああ。祭りがあるからな」
「江戸でもお祭り?」
「将軍様が参られる祭りだ。この祭りとは比べものにならねェ」
「そう」
私は毎日怯えていた。
いつか、この日が来ることを。捨てられる日が来ることを。
彼への想いが膨らむほど、失うことへの恐れも大きくなっていった。
「二度と戻らないとでも思ってる顔だな」
晋助が何をしているのか知らない。
それでも、彼の居場所がここではないことだけは確かにわかっていた。
「戻ってくる理由はないでしょ」
この人のいる世界は、私には遠すぎる。
「戻らなくていいなら、楽だったろうな」
隻眼のまなざしが私を射抜いた。
「○○を手放せば色が消える。そんな世界はつまらねーだろ」
晋助は薄く笑った。
翳りを帯びた右の目には、髪を飾る仏桑花の赤が色濃く映っていた。
(了)