第26章 神威《ためらいの殺意》
神威の笑顔を正面に受け、○○は溜め息を一息吐く。
「気配も殺意も、音も消して近づいたのに、何で気づくの」
「そりゃあ、気配も殺意もまるで消せてないからね」
当たり前のように放たれる神威の言葉に、さらに一息、○○は溜め息を吐いた。
「背後から闇討ちなんていう、卑怯な手を使ったのに」
「卑怯じゃないよ。俺からしたら、正面からでも背後からでも変わりはないんだからさ。それに」
神威は空に目を向けた。
「ちっとも闇討ちになってないしね」
眩いばかりの秋月が、○○の姿を照らしている。
「綺麗な月夜だ」
神威の横に立ち、○○は空を見上げた。
「月を愛でるなんて、柄じゃないくせに」
神威に目を向けると、彼はニコニコと○○を見つめていた。
その心は全く読めない。
「それとも、故郷の星でも見てるの?」
○○は再び金色の光を見上げた。
「俺の故郷は、ここからじゃ見えっこないよ」
地球から遥かに離れ、肉眼で見ることは出来ない星。
二度と帰ることのないだろう故郷は、実際の距離以上に遠く感じる。
妹を捨て、父と反目し、母を亡くした星。
在りし日の故郷には二度と帰れない。