第26章 神威《ためらいの殺意》
「今日は、闇討ちは無理だって」
神威は○○の手首を掴んだ。
「もしかしたら、今なら傷くらいつけられるかと思ったのに」
たった一瞬、見えた表情は○○の知らない顔だった。
神威はいつでも笑顔を浮かべている。
表情が変わるのは、本気で戦える好敵手と相対した時に浮かべる獣の顔。
二つの顔以外、○○は見たことがなかった。
笑顔でも、戦いの最中とも、異なる表情。
思いがけず郷愁に駆られているような物憂い顔に、隙が垣間見えた。
そんな隙は、存在しない幻だった。
「聞いたことなかったけど、そんなに俺の命が欲しい?」
○○に命を狙われる理由は思い当たらない。
今のように、会話などは普通に交わしている。
言葉を交わしている間にも、常に○○からは自身の命を狙っている気配が混ざっている。
「悪いけど、虫の居所が悪い時に狙われたら、○○のこと殺しちゃうよ」
○○が神威を狙った時、気まぐれにでも神威が意趣を返せば、○○の命は確実にそれまでだ。
「命が欲しくて狙ってるんじゃないよ」
宇宙最強種族の夜兎。
その中でも頂に近い実力者である神威の命が奪えるはずがない。
「神威を相手に戦えるくらい、強くなりたいだけ」
神威とともに戦場にいるために。
「神威に殺されるなら、悔いはない」
真っ直ぐに向けられる○○の瞳は、十六夜の月明かりを受けて煌めいている。