第3章 坂田銀時《月見酒より君を見て飲む酒の方が心地よく酔える》
「よく知ってましたね。ここからの眺め」
猪口を二つ手にして、○○は屋上に上がった。
銀時は地べたにあぐらをかいて座り、月を見上げていた。
「かぶき町も長いからな。大体の位置関係くらい想像出来らァ」
銀時は猪口に酒を注ぐ。
○○は銀時の隣に腰を下ろし、夜空を見上げた。江戸城の右上に満月が浮かんでいる。
このビルから満月の間には江戸城以外に背の高い建物はない。
ターミナルを始めとしたかぶき町の高層ビル群は背中側に位置する。
煌々とした明かりを放つ建造物の光にも遮られずに星空と満月が拝める、大都会江戸ではなかなかお目にかかれない景色。
銀時は○○に猪口を一つ手渡した。
「この街のこと、大体知ってますよね。銀さん」
「まーな。知らねー間に、ずいぶん知り合いも増えたもんだ」
○○は酒を口に含む。
「でも、私のことは知らなかった」
「金のねェ俺にとっちゃ、不当な金貸し業なんざ一番関わりたくねー奴等だしな」
銀時の視線は真っ直ぐに満月へと向けられている。
○○は手元の猪口に目を向けた。
澄んだ清酒の底に、藍の蛇の目柄が綺麗に映っている。
「私は知ってましたよ。銀さんのこと」
かぶき町四天王の一人、お登勢の所にいつからか住み着いている獣のような男。
生まれた時からかぶき町で暮らしている○○は、その噂は知っていた。
「噂とは全然違いましたけど」
顔は知らなかったため、居酒屋で同席した男がまさかその男だとは思いもしなかった。
帰り際に渡された名刺で、この男が噂の坂田銀時だと知り、ずいぶんと驚かされたものだ。
獣のようと噂される男。粗野で乱暴で厳つい男なのだろうと思っていた。
「その目で確かめもしねーで、噂を真に受ける奴が多すぎんだよ」
「噂を真に受けてる人達が実際に銀さんと出会ったら、結構驚くと思いますよ」
○○は小さく微笑む。
銀時は空から視線を下ろし、○○に向けた。