第3章 坂田銀時《月見酒より君を見て飲む酒の方が心地よく酔える》
《月見酒より君を見て飲む酒の方が心地よく酔える》
○○はパソコンに並んだ数字を睨む。
今日の取り立て金額はゼロ。
父の入院費と葬儀費で金は減る一方だ。
立ち上がり、窓から夜空を見上げた。
空には大きな満月が輝いている。今日は十五夜だ。
かぶき町の一等地にある高層ビルの上階が○○のオフィス。
インターフォンの音が聞こえ、○○は振り返った。
部屋の入り口に設置してあるモニターが光っている。
こんな時間に、一体誰が訪れたのかと警戒する。
職業柄、恨みを買うことも少なくない。
モニターに映った顔を見て、○○は安堵した。
「どうしたんですか。銀さん」
扉を開くと、見知った銀髪が立っていた。
以前、飲み屋で知り合った坂田銀時という男。
「そろそろ仕事が終わる頃合いだと思ってな」
銀時は酒瓶をかざした。
「今日は十五夜だろ。月見酒と洒落込もーじゃねーか」
○○は眉間に皺を寄せる。
「お酒じゃなくて、お金を持ってきてほしいんですけど」
パソコンに並んだ数字の中、坂田銀時の欄を○○は先程まで見つめていた。
元々は七千円程だった借金だが、利子が膨らみ続けて返済額は万単位になっている。
「俺に金がねーこたァ知ってんだろ。大体、てめーが勝手に貸し付けたんだろーが」
銀時と飲み屋で出会った時、手持ちの金が足りずに彼は勘定に困っていた。
○○は銀時の支払いも一緒に済ませた。
「お金がなくて、どうするつもりだったんですか?」
「んなもん、ツケときゃどーとでもなんだろ」
翌朝、目覚めた銀時は、懐に一枚の紙を見つけた。そこには『借用書』と書いてあった。
酔いの中のおぼろげな記憶の中から、どこかの女が自分の勘定もしてくれていたことを思い出す。
その時になり、○○が親切心ではなく、ビジネスで金を貸したと知った。
それ以降、取り立てで○○は万事屋を訪れるようになり、なんとなく一緒に飲み歩くようにもなっていた。
「ま、今日はその話は言いっこナシだ」
銀時は酒瓶を振りながら踵を返した。
「猪口ぐらいあんだろ。持って来い」
「ここで飲むんじゃないんですか?」
「上だ、上」
銀時は酒瓶を持った手の指で天井を示した。