第3章 坂田銀時《月見酒より君を見て飲む酒の方が心地よく酔える》
「○○も同じだろ」
○○は手元から目を上げ、銀時の視線を受けた。
「金借りてた奴等が言ってたぜ」
あの親の仕事を引き継いだ娘はロクなものではない。
今までの過剰な取り立てしか知らない者達は、娘も同じだろうと決めつけていた。
一方、○○と会ったことのある人達は、○○の悪口など誰一人言わなかった。
「おかしいと思ったぜ。こちとら一円も返してねーのに、話に聞く取り立ても何もねーからな」
時折、○○は取り立てとして万事屋に出向いてはいたが、まだ金がないと言えば事が済んでいた。
「借用書なんて、本当は必要ねーんだろ」
元より、○○は金を返してもらう気などないのではないか。
それに気づいた銀時は、○○の周辺に探りを入れた。
その結果、○○に代替わりしてから過剰な取り立ては一切なく、従業員は一人残らず別の職場に転職していた。
「やめるつもりだろ、この仕事」
○○は手元に目を落とした。
手の中で猪口をくるくると弄ぶ。
「やめて、どこに行くつもりだ」
○○は目を見張った。
「そこまで、気づいてるんですか」
誰にも知られず、ひっそりと街を出て行くつもりだった。
「ここから十五夜の月が拝めるのも、今日が最後だろ」
銀時は空に視線を戻した。
同じように、○○も視線を上げる。
この景色も、父のあくどい商売で得た金のお蔭で見られているものだ。
この商売を終わらせるために、○○は父の仕事を引き継いだ。
江戸城とも、背後にそびえるターミナルや高層ビル群とも、もうすぐお別れ。
空に浮かぶ金色の光が、二人の顔を照らす。