第22章 高杉晋助《松下村塾のクリスマス》
草木も眠る丑三つ時。
ただならぬ気配を感じ、晋助はうっすらと目を覚ました。
細く開いた目に入ったのは、見下ろす女の影。
思わず声を上げかけたが、それはよく知る女の顔だった。
○○は晋助の枕元に腰を下ろす。
恩師は夢枕に立てと言っていたが、生者の自分が夢枕に立つ方法などわかるはずがない。
大体、何を思って夢枕に立てなどという意味のわからないことを言ったのだろう。
晋助は眉間に皺を寄せて寝ている。
寝ていてもこんな硬い顔をしているのかと思いながら、その顔を見つめる。
この顔を、ずっと○○は見つめていた。
○○は以前から晋助に想いを寄せていた。
晋助の眉間に指を乗せる。
村塾に来た当初よりはだいぶ柔和になったけれど、彼の楽しそうな顔がもっと見たい。
「くすぐってーな」
「ひっ――」
寝ていると思っていたその目が突然開いた。
晋助は普段から眉間に皺を寄せながら寝ているわけではない。
起きていたから、そこに○○がいることに気づいていたから険しい顔をしていたまで。
「声上げんな。アイツらが起きるだろ」
晋助は○○の口を左の手のひらで塞いだ。
仕切りの向こうからはコーカーという銀時のいびきと、スース―という小太郎のいびきが聞こえている。
もぞもぞと、晋助は半身を起こす。
「何してんだよ」
非難するような目を向けられ、○○は顔を伏せる。
「松陽先生が、晋助の夢枕に立てって」
「夢枕……?」
晋助は目をしばたたかせる。
「夢枕……?」
発言した○○までもが首を傾げる。
以前から松陽の発想には突飛なものがあるとは知っていたが、またおかしなことを言ったものだ。