第21章 坂本辰馬《辰馬とハサミは使いよう》
「とにかく、攘夷戦争中、金時と並び称されて恐れられた○○がいれば百人力じゃ」
「昔の話でしょ。ていうか、金時って誰よ」
「何じゃー、昔馴染みを忘れたがか? 薄情なもんじゃー」
「どっちが」
昔馴染みの名前を間違えている奴に言われたくはない。
無意味だろうが間違いを正してやろうかと思った時、
「坂本さん! 敵襲です!」
慌てて飛び込んで来た一人が告げた言葉に、目を丸くした。
このバカの命が狙われているというバカバカしい情報は、まさか真実だったというのか。
「バカな」
世の中はバカで溢れているとでもいうのか。
*
甲板に出た私は、複数の艦船を目にした。
快援隊を取り囲むようにそれらは宙に浮いていた。
一見物々しい雰囲気だが、大砲などは向けられていない。
「ありゃ? おかしいぜよ。あれはマルコメ族のマークじゃのー」
艦隊に記されたマークは、確かにマルコメ族のものだった。
それは辰馬の命を狙っているという一族ではないようだ。
彼等は交渉にやって来た。
「船に積んである毛生え薬を譲ってほしい」
とのこと。
とある星のとある要人とは、猩猩星のお偉いさんで、近頃、全身脱毛症に悩み、毛生え薬を所望していたらしい。
毛深い者ばかりの猩猩星に、毛生え薬など売っていないのだとか。
その情報をキャッチし、マルコメ族の一部の人がこうして乗り込んで来たようだ。
マルコメ族なのに、マルコメが嫌な人がいるとは初耳だ。
積み荷には限度があるから、後日また運びに来ると辰馬が伝えると、彼等は帰って行った。