第21章 坂本辰馬《辰馬とハサミは使いよう》
《辰馬とハサミは使いよう》
「○○、わし、命ば狙われちゅうんじゃ」
「は?」
突然の呼び出しを食らい、私は辰馬の所へ駆けつけた。
昔と変わらないヘラヘラした笑顔を向け、彼は私にそう告げた。
「何をわけのわかんないこと言ってんの」
辰馬は今、一商人として働いている。
温和な性格上、命を狙われるようなあくどい商売はしていないはずだ。
「実はの、とある星のとある要人に、とある薬の運搬を頼まれちょるんじゃが、そのとある星と敵対しているとある一族がそのとある薬を、とある秘密兵器と勘違いして、狙っとるようなんじゃ」
説明を聞き、私は眉間に皺を寄せる。
「……何をわけのわかんないこと言ってんの」
一体、何を言っているのかさっぱり理解が出来ない。
「取引先とのことはプライバシーに関わるきに、○○にも言えんのじゃ」
とにかく、とある星に加担していると思われ、命を狙われているというタレ込みがあった。
だから用心棒として私を呼んだと、辰馬は言う。
「あいにく陸奥は商談で留守にしててのー。わしが命ば狙われちゅういうのに『こげなバカの命狙うバカがどこにおる』いうて全く相手にせん。薄情な部下じゃ」
「陸奥さんが正しいと思う」
こんなバカの命を狙うバカは、恐らくいない。
「○○まで何を言うんじゃー」
「辰馬の馬は、馬鹿から取ってるんでしょ」
「敵わんのー」
あははははと、彼は笑う。
私はその笑顔を見つめる。戦争中でも、この人はこんな風に笑っていた。
劣勢が続く状況でもヘラヘラしていて、たまに疎ましくも思ったけれど、この笑顔に救われてもいた。