第21章 坂本辰馬《辰馬とハサミは使いよう》
「何じゃー、どうやら情報が錯綜していたようじゃの」
命を狙われているというのは間違いで、積み荷を欲しがっていただけだった。
「私、何しにこんなとこまで来たのよ。これじゃ、私の方がバカみたいじゃない」
無駄足もいい所だ。
「すまんのう」
「今度、こっちで何かあったら、すっ飛んで来てもらうから」
今まで私は、何度か辰馬に呼び出されて駆けつけている。
動いているのは、いつも私ばかりだ。
「当たり前じゃ。どこにおっても、大事な商談中でも、○○のためなら全部放っぽって駆けつけるぜよ」
思いがけず真顔で言われた言葉に、私は面食らう。
「嘘ばっかり。駆けつけてくれたことなんてないじゃない」
「そりゃ、仕方ないろー。わしゃ、○○に呼ばれたことないぜよ」
私は目を瞬く。確かに、自分から辰馬を呼んだことなどない。
「○○も忙しそうじゃき、めっそう連絡せんようにはしちゅうけど、時々、会いとうて堪らんちや」
真っ直ぐに目を見据えられて伝えられた言葉に、私は狼狽する。
「……何をわけのわかんないこと言ってんの」
「わけわからんことないろー。わしがおまんに惚れちゅうこと、気づいちょらんことないろー?」
気づいてなかったがよ。
「○○は鈍すぎじゃき」
大きな口を開いて、あはははははと辰馬は彼らしい笑顔を見せる。
「○○はわしに会いたくないかもしれんがの、これからもわしが危ない時は駆けつけてくれんかのー?」
鈍いのはお互い様だ。
好きな相手でもなければ、突然の連絡に応じて毎回駆けつけたりするものか。
私は、辰馬のこの笑顔に惚れたんだ。
(了)