●○青イ鳥ノツヅリ箱○●【イケシリ短編集】(R18)
第1章 Last Supper〈イケ戦/政宗/元就/現パロ〉
「…機能的には、問題なく食べられるとは思うんですが…」
一通りの評価を終えて、満留はしかし、途方に暮れてモニターを見ていた。
そこには患者の咽頭内部の映像が映っていた。
つい先ほど、水を飲み込んだばかりのそこは、残留もなく理想的な状態を見せていた。
しかしそれ以降、何かが喉を通ることはない。
全て口腔内に溜め込まれていた。
「嚥下惹起のタイミングの遅れもねぇし、喉頭蓋の傾倒も十分だ。誤嚥リスクは低そうだな」
「でも降りてこないとなると、口腔期の問題が…というか、それ以前に…」
「意欲の問題だろうが、どう見ても」
モニターを覗き込む二人の後ろから、呆れたような声がする。
「だよなぁ」
同意の呟きとともに伊達医師が振り返る。
「なんだ元就、手伝ってくれんのか?」
「ずいぶんもたついてるみてぇじゃねぇか。満留、時間かけんじゃねぇ。もういいだろ」
ぶっきらぼうな毛利医師の手が、モニターの電源を切る。
「患者の負担考えろ。もう抜くぞ」
「でも、まだ飲水以外の評価はできてませんよっ?」
「いや、十分だ」
伊達医師の手が、静かに患者の鼻からカメラを抜き出す。
その手が傍らに置かれた手作り風のプリンを指差す。
それは美弥が作ったものらしい。
「お前の評価は?」
「さっき、話した通りです。プリン程度なら、残存機能で食べることに問題ないかと」
「ならあとは、何が足りない?」
「食べる意思、意欲の問題……」
そこで、はっと満留が二人の医師の顔を見る。
「ご家族…っ娘さん!まだ、いらっしゃいます!?」
「遅ぇよばーか」
赤い瞳がニヤリと笑って入り口を振り返る。
その視線の先に、先ほどの母娘が並んで待っていた。