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●○青イ鳥ノツヅリ箱○●【イケシリ短編集】(R18)

第8章 今宵は桜の木の下で…〈源氏伝/鞍馬/NL〉





桜の花には、浄化の力が宿るという。



桜の木の下、満留の躰を抱きしめていた。
満留に纏わりついていた白い靄が、桜の花びらに溶けるように霧散していく。

それは、どんな名残もないほど、潔く。

実体があれば切り刻んでやったものを…。
満留の躰を、思念体と言えども覗き見せた心地に、鞍馬の翼が荒ぶり羽ばたく。
その風に、桜の花びらが美しく舞った。

「鞍馬……」

腕の中、永遠を誓った娘が名を呼ぶ。
しかしその吐息は、穏やかだ。

「寝言でまで俺を呼ぶとは…殊勝なことを」

そっと、満留の唇を撫でる。
その口角が、ふっとくすぐった気に震えて笑んだ。

釣られ、鞍馬の唇も知らず弧を描く。



『 鞍馬はずっと、寂しくない? 』



満留の声が、耳に響いた。

「そんな感情は、俺は知らん…」

再び、呟く。

「お前がそれを感じぬのなら……それでいい」

愛しさを抱く温もりを、逃さぬように抱きしめる。
魂を奪ったとしても、この温もりにはもう会うことはない。

しかし、記憶を奪われることもない。

ならば永遠にこの身に刻み込もう。
お前の熱も、声も、香りも全て…。



「お前の何もかも、永遠に俺の物だと知れ…」



腕の中、満留がこくりと、頷いた気がした。
果たしてそれは気のせいか。



柔い満留のその頬を、涙が一筋、流れていった。






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