●○青イ鳥ノツヅリ箱○●【イケシリ短編集】(R18)
第1章 Last Supper〈イケ戦/政宗/元就/現パロ〉
伊達医師はその場に仁王立ち、黙って見ていた。
「伊達先生、時間…大丈夫なんですか?」
「せっかくお前を口説き落としたってのに、あとは任せた、なんて放り出すと思うか?」
「口説かれてません」
さも当然のようにさらりと宣う医師らしからぬ軽薄な医師に、一瞬満留の目が座る。
「…ポジショニング、側臥位でとりますね」
患者の体にそっと触れる。
しかし、骨盤に触れたところで満留の手が戸惑いに止まった。
伊達医師の目がそれを捉えて、即座に動く。
「骨折部位は固定してるから心配するな。ただし、回旋は避けてくれ」
言いながら、シーツごと患者の体を横へずらす。
「このまま横向ける」
「お願いします。頸部は動かせますか?」
患者の表情を注意深く観察しながら、姿勢を整える。
その最中、患者がわずかに声を漏らした。
「…う、あ…」
「目が覚めました?おはようございます」
その目をのぞき込み、満留が明るく声をかける。
ER室の雰囲気にはよほど、似つかわしくない。
それを意に介した様子もなく、満留は患者に微笑みかける。
「お前の外面笑顔を見るのも久しぶりだな。できるんじゃねぇか、俺の前でもちっとは笑えよ」
忍び笑いに満留だけ聞こえるように密やかな声。
にっこり微笑み湛えたままに、満留はただ患者の様子を観察する。
伊達医師の言葉に反応する様子なく、患者はぼんやり、満留を見ていた。
「…なるほど、難聴もあるわけですね」
「ご名答」
見てろと言わんばかりに、伊達医師が口元を患者の耳元へ寄せて声かける。
「お待たせしました。やっと、食べられそうですよ」
「伊達先生…まだそうとは…」
「おね、がい…しま…す」
消え入りそうな患者の声に、満留も言葉を飲み込む。
伊達医師の顔を見た。
「さて、やるか?」
挑発的にその笑みに、満留は黙って頷いた。