●○青イ鳥ノツヅリ箱○●【イケシリ短編集】(R18)
第1章 Last Supper〈イケ戦/政宗/元就/現パロ〉
扉を抜けると、途端に溢れる電子音。
敢えて淡白に交わされる、緊迫感が陰に滲んだスタッフの声。
鼻につくのが、消毒薬の匂いであることにほっとする。
記憶の奥底が、その匂いの中に鉄の臭いを探してしまう。
ERの空気は、ひどく濃い。
その扉を抜けるたびに、濃度に体を押し返されるような錯覚を受ける。
錯覚なのか、願望なのかは置いといて。
毛利医師の背中に付き従いながら、いくつものベッドを通り過ぎる。
どのベッドもこちらを見返す顔はない。
一様に瞼を閉じて、静かな呼吸を繰り返していた。
繋がれた計器がそれぞれのバイタルを数値化し、静かに明滅を繰り返している。
「さすがですね…どの患者さんも安定してる」
「おう、もっと褒めてもらって構わねぇぜ?」
振り返りにやりと笑う赤い瞳は、きっと満留の不安を見抜いている。
言外に、”安心しろ”と言われた気がした。
しかし、奥に進むにつれて、様相は変わる。
その一番奥のベッドの傍に、その人はいた。
こちらに気づいて振り返る。隻眼が笑っていた。
「来たな」
「ご指名ありがとうございます」
せめてもの嫌味を返して、伊達医師の後ろに横たわる”美弥の父親”を見た。
全身状態を眺め、無意識に眉間に皺が寄る。
「既往歴、現病歴は毛利先生にお伺いしました…事故だそうですね」
「あぁ。悪いが、座位は取れねぇ」
「嚥下機能に影響する所見はないと伺いました。検査はきっちりしますけど…ポジショニングの方が問題かな。それ以前に、覚醒維持できるかも心配ですが」
言いながら、慣れた手つきで評価用具を広げプラスチック手袋をはめる満留を横目に、毛利医師は用は済んだとばかりに電子カルテの整理に戻っていった。