●○青イ鳥ノツヅリ箱○●【イケシリ短編集】(R18)
第1章 Last Supper〈イケ戦/政宗/元就/現パロ〉
きっちり20分リハビリメニューを施行し、患者を病室まで送り届けたその足で、面談室へと向かった。
扉の前まで来ると、待ち構えたかのように中から見知った顔が覗いた。
「―――毛利先生?」
「おぅ、来たな満留。ほれ、ちょうど今もらったとこだ」
数枚の紙の入ったクリアファイルを渡された。
ちらりと覗いた部屋の中に、女性と中学生らしき女の子が席を立つところが見えた。
毛利医師と満留が身を引き扉を開くと、女性が毛利医師へと近づき、小さくお辞儀をしながら部屋から出ていった。
娘も母に習ってお辞儀をしながら、ちらりと満留の方を見た。
つられて、満留もお辞儀を返す。
「先生…よろしく、お願いします」
「ご同意いただき、ありがとうございます。こちらも最善を尽くします」
院外向けの柔らかな笑みを浮かべた毛利医師の顔は何度見ても見慣れない。
人のことは言えない笑みで、去っていく二人の背中を見送った。
「あの母娘、大丈夫ですか?随分疲れた顔をしてましたね…」
「インフォームドコンセント(自己決定権)ってのは誰にも優しくねぇよな。現実は、覚悟を決めろっつう最終通告だ。こちとら、気楽じゃねぇよ」
ピンッと、毛利医師の指が満留の持つクリアファイルを弾く。
釣られてその紙面に視線を落として、満留の表情が僅かに強張る。
「あぁ…VE(嚥下内視鏡検査)の同意書だけじゃ、ないんですね…」
「―――あの!」
「あ、こら美弥っ」
顔を上げると、廊下の先から先程の娘の方が駆け戻ってきた。
「何か忘れ物でも?」
再び似非笑み浮かべた毛利医師が応える。
娘は俯き首を振り、言いにくそうに呟いた。
「…お父さんの大好物…がんばって作ったんです…」
娘の頬を、涙が流れた。
「お父さん…食べてくれますか?」
毛利医師は何も答えず、満留を見た。
満留は手元の同意書を一度眺めて、美弥に向き合う。
「食べてくれたら、いいですね」
嘘は、言えない。
満留の言葉に、美弥は黙って、頷いた。