●○青イ鳥ノツヅリ箱○●【イケシリ短編集】(R18)
第8章 今宵は桜の木の下で…〈源氏伝/鞍馬/NL〉
「……お前は今、幸せか?」
唐突な鞍馬の言葉に、萎んだ満留の頬が再び、朱に染まる。
「わ、私が答えるのっ?」
「俺が聞いているのだ。お前以外に誰が答える?」
「いや、そうなんだけど流れとしてそうじゃないような…っ」
腑に落ちないように眉を顰める満留だが、穏やかな、しかしどこか、哀し気な笑みを浮かべて鞍馬を見つめた。
「それはもちろん……幸せだよ。本当に、信じられないくらい、とっても…」
二人の間を、桜の花びらがひらひら、舞った。
「だけどね。ずっと、考えてもいるの。私と鞍馬じゃ、生きる命の長さが違う。いつかは…私が先に鞍馬を置いてく…。そう考えると、正直…辛いよ」
「何が辛い?死んでしまえばそれまでだろう。無念を残し、死霊となるならやめておけ」
「それもいいな」
鈴の様に、満留が笑う。
「でもそうじゃないんだ。本当に、自分のことしか考えてなくて情けないけど……鞍馬の隣にいるのは、私が、いい。永遠に…ずっと鞍馬の側に、いたい。鞍馬を、置いていきたくない」
ふん、とつまらなそうに鞍馬が視線を反らす。
「何の話をしている。お前の幸せはどこへいったのだ?」
「わかってる。ここからここから!」
抱えた膝に頭を乗せて、やはり満留は幸せそうに微笑んだ。
「だからね。鞍馬と一緒にいるこの時間が……この、一瞬一瞬が……泣きなくなるほど、愛おしく思えるの。寝る間だって、息をする少しの間だって惜しいくらい。
―――…苦しいくらい、幸せだよ」
満留の手が、鞍馬の頬へと触れる。
その指は、涙を拭う仕草に似ていた。