●○青イ鳥ノツヅリ箱○●【イケシリ短編集】(R18)
第8章 今宵は桜の木の下で…〈源氏伝/鞍馬/NL〉
この表情を、満留は知っている。
妖と人。
生きてきた世界、時間、価値観の違う二人がすれ違う時、いつも鞍馬はこの瞳をした。
…そして、満留に寄り添ってくれた。
満留の胸に愛しさという温もりが溢れる。
頬の手をそっと握り返して、満留はそっと、桜の木の下へと誘った。
桜の木の下へと腰を下ろして、鞍馬を見上げる。
鞍馬もまた、大人しく満留の横へと腰を下ろして、満留を見た。
「お前は覚えていないだろうが、手入れの最中、その思念がお前の意識を捕らえていた」
「私を…?」
気付けば鞍馬に抱かれ、空へいたことを思い出す。
あの直前、記憶にあるのは雛飾りの手入れを終えた満足感。鞍馬と言葉を交わして、そして…。
「男雛に宿った思念に当てられたのだろう。つくづく、お前はおかしな女だ。なぜに次から次へと、おかしなものを惹きつける」
「不可抗力です…それに、そこに鞍馬も入っているよね?」
不遜と自覚しながらも、おずおず満留が言い返す。
そんな満留を、鞍馬はふんと鼻で一笑に付す。
否定はない。ただそれだけのことが、満留の頬を赤く染めた。
「あんなに優しい、綺麗なお顔のお雛様に…どんな、思念が宿っていたの?」
「……よく、わからん…」
「……鞍馬?」
考え込むように、鞍馬は頭上の桜を見た。
「お前を捕らえる思念を断ち切ってやろうとした時、一層強い思念を俺に送りつけてきた」
見上げるその目の前に、右手を翳す。