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●○青イ鳥ノツヅリ箱○●【イケシリ短編集】(R18)

第8章 今宵は桜の木の下で…〈源氏伝/鞍馬/NL〉





「…よし、できた!」



満足げな声に、縁側で不貞寝していた鞍馬がゴロリとぞんざいに寝返り見た。
しかし、満留が飾り終わった五段飾りを認めると、その身を起こして食い入るようにそれを見つめた。
無言の鞍馬の賞賛に、満留も静かに頬を緩める。



…まるで、命を吹き込んだかのようだった。



埃を被り、長年の汚れに黒ずんでいたその顔が、今は仏顔で微笑んでいる。
丁寧に磨かれた屏風に玉台、嫁入り道具、掛盤膳に至るまで、繊細な細工が見て取れた。
しかし権力を誇示するような嫌味な驕奢のそれではなく、職人の心が宿るかのように見るものを穏やかに惹きつけた。

「立派な雛飾りだね。長いこと仕舞ったままだったんだって。勿体ないよね」
「…悪くない代物だ。儚く脆弱な存在であるというのに、己の姿を象る人形など、傲慢の極みと思っていたが…」

しかし、そこで鞍馬の言葉が途切れた。

「………」

不自然な沈黙の中、満留は鞍馬を振り向くことなく雛飾りを見つめ続けていた。
その表情は、恍惚というに値した。

鞍馬の赤い瞳が、満留の身を包み込む白い靄を映し出す。
白い靄の先を横目で睨む。

「…やはり、傲慢であることに変わりはない」

靄の先は細い管を描き、男雛へと続いていた。
徐に、黒い翼が立ち上がり、満留の眼前に立ちふさがる。
しかしその瞳には鞍馬の姿は映らぬかのように、うっとりとした表情浮かべて前を見つめ続けていた。

「人形の分際で、誰のものに手を出している」

鞍馬の声音は、男雛へと向いていた。
その柔らかく優しい瞳は、静かに鞍馬を見返していた。
苛立たし気に、紅玉の瞳が人形を見据えて眇む。



妖力を纏った鞍馬の手刀が、二人を繋ぐ靄の糸へと振り落とされた―――



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