●○青イ鳥ノツヅリ箱○●【イケシリ短編集】(R18)
第1章 Last Supper〈イケ戦/政宗/元就/現パロ〉
リハビリテーションルームの一角に設けられた個室の中で、満留と患者が向き合って座っていた。
満留がカードを患者の前に並べ、にっこり微笑む。
「じゃあ、私と一緒に声に出して読んでみましょうか。最初は…」
―――P,P,P…P,P,P…
「ピピピ?」
患者が首を傾げて繰り返すのを、満留が慌てて苦笑で止めた。
「待って!今のはなしでっ…ちょっと、すみませんっ!」
掌を横に振って見せ、胸ポケットからPHSを取り出して指さした。
「電話!掛かってきたので、ちょっと待っててくださいね!」
笑みを浮かべたままPHSのディスプレイを見る。
その瞬間、笑顔が固まる。
「…うわ、ER…」
「いーあー?」
患者が再び、繰り返しながら小首を傾げる。
「そう、いーあーる!ちょっと電話、話してきますね」
あはは、と声が聞こえそうな笑顔を貼り付け満留はそっと個室を出た。
扉を閉めて、深呼吸。
人差し指で、力いっぱい受話ボタンを押す。
「…はい、ST(言語聴覚士)満留です」
『 満留!頼みがある、ちょっと来てくれ! 』
思った通り聞こえてきた声に、満留の顔からとうとう笑顔の仮面が剥がれた。
「伊達先生、無理です。リハビリ中です。毎度言いますけどいきなり呼び出されてもですねっ…」
『 あと1単位(20分)で終わりだろ。しかも、お前その後ちょっと空いてるよな 』
「把握しないでください、怖い!」
『 今お前がもってる患者さん、俺が受け入れたんだ。残り時間も、しっかり頼むな。んで終わったら面談室に寄って来てくれ 』
「面談室?伊達先生、今度こそリハ処方箋出してくれるんですよね?処方箋なきゃ、点数とれな…っあぁっ切れた!」
耳元に囁く通話終了音に悪態つきつつ、満留の口から盛大な溜息が漏れた。
時計を見つめ、しかし次には再び顔に笑みを浮かべて、患者の待つ個室へと戻っていった。