●○青イ鳥ノツヅリ箱○●【イケシリ短編集】(R18)
第5章 月光〈イケ戦/信長/光秀/帰蝶/BL〉
今宵は新月。
月の光を欠いた宵闇。
その”黒”を、さらに色濃く塗りつぶしたような閨には、錆びた鈴を思わせる、心を惹き掻く声が彷徨う。
「っぅあ…ん、ぁくっ」
闇の中、白い肌が、辛うじて差し込む弱い星の光を集めて、闇に白く浮かびあがっていた。
頬を流れる雫は花の蜜の様なれど、それは果たして、いずこより湧き出たものだったのだろう。
「はぁっ…ぁあっん…っあっ!」
うつ伏せたその顔が苦悶に歪むも、覆いかぶさる影の動きは止まることなく、組み敷くその躰を何度も貫く。
その身を揺られるがままに、髪を揺らす帰蝶の瞳に光はなく。
遂には錆びついた鈴の音すらも枯れ果てた。
ふいに、艶やかな黒髪が後ろか無造作に掴まれ、引き上げられた痛みに帰蝶の喉が呻いた。
「いっ―――ぁ、あっ…」
「今宵は、気も漫ろだな」
無理矢理に振り向かされた先に、紅玉が燃えていた。
「…貴様、何を考えている?」
帰蝶の躰を燃えつくさんばかりに熱く滾らせた摩羅とは裏腹に、その声は身が凍えつくほどに冷たい。
「―――な…にも…っ」
「俺を謀(たばか)るつもりか?」
「ぐっうぅっ!」
掴み上げていた帰蝶の頭を、信長の手が無慈悲に褥に叩きつけた。
苦悶に震えるその身から、硬度を無くすも質量の衰えない狂暴な摩羅を引き抜いた。
「…興が覚めた。早々に去ね」
無造作に羽織を肩にかけ、帰蝶を見返ることなく信長の背は張り出しに消えた。
痛みに軋む体を抱え、震える手で着物を手繰り、身を隠す。
帯を整えることも煩わしく、よろりと立ち上がり、天主閣の襖を抜けて静かに閉じた。