●○青イ鳥ノツヅリ箱○●【イケシリ短編集】(R18)
第3章 Sing a song 第一幕〈イケ戦/顕如/信玄/BL〉
ふと、その表情が何かを思い出したかのように天井を見た。
「君が代、か…そういえば、面白い話を聞いた」
「へぇ?お前のいう”面白い”には、興味があるなぁ」
くすくす笑いが常習化してように楽し気に、信玄が椅子から身を乗り出してくる。
それに反して、顕如は”口が滑った”とばかりにしかめ面をした。
「空耳英語、というものがあるだろう」
「んー?一時期流行ったあれか、英語が日本語に聴こえるっていう」
「面白い話というのは、その逆だ。君が代を英語耳で聞き取ってみると、これがいかにも抒情的な歌詞となるというものだ」
「へぇ…確かにそれは面白いな」
信玄の瞳が、一層楽し気に笑みを浮かべた。
そのままじーっと、顕如を見つめる。
「…なんだ、その目は」
「まさか、そこで話は終わりじゃないだろ?」
「…は?」
乗り出した身で膝に片肘をつき、小首を傾げて、憎らしいほど男前に信玄が微笑みを浮かべる。
「今年は可愛い生徒(天使)たちの歌声を聴くことも叶わないんだ。お前のそのテノールで俺を癒してくれないか?」
「なぜ私がお前を癒さねばならん」
「そうだなぁ、旧知の仲である俺の性格を理解し尽くしたお前のことだ。その話を聞いた俺が次に何を言うかは、想定内だろ?」
呆れた顔の顕如が信玄を睨みつけるも、信玄はますます楽し気な笑みを浮かべてよこした。
「そうだな…梃子でも動かんのだろうな」
「だからお前が好きだよ、顕如」
軽薄な信玄の言葉を受け流し、顕如は疲れたようにソファに仰向けになり、片腕で両目を覆った。
溜息ひとつ聞こえたその後、耳に心地の良い低い唄声が、二人きりの広い職員室に静かに流れた。