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●○青イ鳥ノツヅリ箱○●【イケシリ短編集】(R18)

第3章 Sing a song 第一幕〈イケ戦/顕如/信玄/BL〉




カタカタカタカタ…


閑散とした職員室の一角で、武骨ながらも長く美しい指が、パソコンのキーボードを打つ。
それは、美しい音色を奏でるかのように軽やかながらも、徐々に動きは表情を変え、苛立たし気にEnterを打った。

長い溜息を付きながら、その顔が天井を見上げた。

その時。
ガラッと廊下に続く扉が開いた音がした。
遅れて、ヒヤリとした廊下の空気が社会科教師の首筋を撫でた。

「…武田先生?まだいたのか」
「水臭いなぁ。就業時間はとっくに過ぎたぜ?いつも通りに呼んでくれ」

椅子の背もたれをギシリと軋ませ、天井を見上げたその顔をさらに後ろに傾けて、にこやかな顔で信玄が言う。
扉を後ろ手に閉めながら、呆れ顔で溜息をつく英語教師、顕如の顔がこちらを向いた。

顔には額から頬にかけて斜めに引きつる傷跡があり、等しく新入生を震え上がらせる。
しかし、一学期を終える頃には誰一人として彼を恐れるものはいなくなる。
仁徳を絵に描いたような教師だった。

その目は、今は疲労の影を落としていた。
その視線が、信玄を通り越し、机の上のディスプレイを見た。

「…例の件か?」
「まったく、織田校長もやってくれるよ。PTAや文科省にどう言い訳すりゃぁいい?」

卒業式も間近に迫り、準備に追われるその最中の朝礼で、織田校長が国歌斉唱の省略を宣言した。
それは教頭の豊臣にすら知らされていない、まさに校長の独断だった。
教務主任の明智が顔色一つ変えないところが、また腹立たしい。

「国歌斉唱だって、立派な教育の『義務』だろう。校長自ら義務の放置とは全く…正気じゃない」

口元に笑みを浮かべた信玄の目が、剣呑に光る。
顕如も苦々し気に頷きながら、疲れたように仮眠用のソファへと座り込んだ。

「もっともらしいことをあの男はほざいていたがな…真意の程はよく知れぬ」
「校長を『あの男』呼ばわりとは恐れ入る。お前の言葉は胸がすくよ」

今度は心から楽し気に、信玄がクスクス笑う。
釣られて顕如の顔にも、僅かに笑みが浮かんだ。

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