●○青イ鳥ノツヅリ箱○●【イケシリ短編集】(R18)
第1章 Last Supper〈イケ戦/政宗/元就/現パロ〉
計器に繋がれ横たわる、父親の前に美弥が静かに近寄る。
「…お父さん」
しかし、その瞳は閉じたまま。
静かに呼吸を繰り返していた。
「大丈夫。起きてくれるよ」
満留が患者の背中に回り込む。
その肩に軽く手を添え、耳元で呼ぶ。
「お待たせしました。美弥ちゃんがプリン、持ってきてくれましたよ」
患者の瞼がぴくりと震えるのを見て、美弥の顔がわずかに強張る。
満留が自分の頬を両手でつついてみせる。
「美弥ちゃん、笑顔笑顔!もう一回呼んでみよ?」
美弥は小さく頷いて、必死に口角を押し上げて見せた。
「お父さん!プリン、できたよ…早く起きなきゃ、なくなっちゃうよ」
「―――み、や…」
瞼を震わせながら、患者の両目がうっすら開く。
娘の名を呼ぶその唇が、小さく笑って見えた。
「さぁ、食べてもらおうか!」
そういうと、患者の顔をゆっくり上に向けていき、クッションを当てて角度を調整する。
美弥の持つスプーンを受け取ると、適量を掬い上げて美弥に持たせた。
「声をかけて、口の中に入れてあげて。最初は舌にちょっと触れるくらいでいいから」
「お父さん、はいあーんして」
満留の言葉を聞きながら、美弥の目は父親をじっと見つめて、言われたとおりにスプーンを患者の口へと運んだ。
患者の口が、ゆっくり閉じてスプーンを咥えた。
「美弥ちゃん上手…そしたら、ゆっくりスプーン引いて…」
震える美弥の手が、スプーンをゆっくり口から引き出していく。
時間をかけて、患者の口がもごもご動いて、やがて”コクン”と喉を鳴らした。
「…ぅん、うまいなぁ…」
長く息を吐きながら、患者の瞳が娘を見つめて、微笑んでいた。
―――その、数時間後。
美弥の父親は息を引き取った。