第6章 出会ってしまったひとりと一振り 〔肥前忠広〕
「別に用意してもらって手間かけちゃうけれどお願いします」
鍛刀前はくちに入れるものが制限される事を言っているのだ。
「それくらいお安いご用さ」
歌仙は気にすることもなく答える。
準備をしよう、と全振りでその支度を手伝った。
そして鍛刀当日、朝から入浴しからだを清めた審神者は清潔に整えられた巫女衣装に着替える。
「久し振りに着たな…」
両腕を横に伸ばし衣装が崩れていないか確認した審神者はぽつりとつぶやき、そして「それじゃあいけないな…刀剣男士を増やさないとね…」と頭をふるりと左右に振った。
自室を出て廊下を歩き、鍛刀部屋の近くに来ると六振りの刀が部屋の前に座っていた。
「お待たせしました」
鍛刀部屋の少し手前で立ち止まり皆が鍛刀部屋の前で座して待つ中、声を掛けると男士たちは座ったまま少し目線を斜め下に落とし頭をさげる。
「宗三左文字様、付き添いをお願いします」
審神者は今日までの準備を手伝ってくれた宗三の名を呼び、宗三はその場で更に頭を少し深く下げる。
そして宗三は立ち上がり無言のまま鍛刀部屋の入口の横に片膝をついて座り、両手を障子に掛けると静かに横に滑らせて開いた。
審神者も無言のまま廊下を進み、頭を下げる男士たちの前を通って部屋に無言で入ると、宗三もそのまま部屋に入りまた片膝をついて座ると、その体勢のまま両手で障子を滑らせて閉めた。