第6章 出会ってしまったひとりと一振り 〔肥前忠広〕
「よし、今日は残念会だ。万屋街で美味しいもの買って帰ろう」
審神者は笑みを少し浮かべて言う。
「美味しいもの、やったぁ」
乱が嬉しそうに声をあげ、歌仙はにこりと審神者の頭をぽんと撫で、審神者はちょっと恥ずかしそうに歌仙に視線を向ける。
その目はふちが泣いたせいでうっすら赤くなっていたのに歌仙は気付き、本丸に戻ったら冷やした手ぬぐいを差し入れてあげようと思うのだった。
そうして彼等が部屋を出ると上級者本丸の対戦も終えたらしく、別な部屋からぞろぞろと審神者と刀剣男士たちが出てきた。
「…あ…」
審神者はぴたりと立ち止まる。
「どうしたの?璃杏さん」
鯰尾に話し掛けられ、審神者は鯰尾の顔を見る。
「ねぇ…今、あそこに以前見た別本丸の刀剣男士が…」
「え…誰?」
審神者は慌てて見た方向を鯰尾に指すが、刀剣男士たちが大勢いて目的の姿を見失う。
「あれ…えっ…と…あ…いない…」
先に歩いていた歌仙が、後ろから審神者が来ていないのに気付いて声を掛ける。
「何をしているんだい?早く帰ろう」
「あ…うん…ずおくん、何でもないや…」