第6章 出会ってしまったひとりと一振り 〔肥前忠広〕
「こちらこそ対戦ありがとう。相手が貴女の本丸で良かったわ」
どういうことだろう、審神者は目をぱちくりさせると、相手はぱらりと手にしていた扇を広げて口元を隠して言った。
「おかげで対戦記録に白星がついて、本丸ランキングが少し上がるもの」
うふふ、と笑った審神者の目は笑っておらず、その笑みも対戦前に比べると嫌味な印象を審神者は受け、審神者はその審神者の態度の差に内心驚いた。
相手の審神者の表情の豹変ぶりが気になって、その後の対戦は審神者の記憶に残らず気付いたら全ての対戦が終了していた。
『そんなに勝たなくてはいけないのか。勝つ本丸があれば負ける本丸も有る。勝った余裕があるなら、あんな言い方しなくても残念くらい言ってくれても良いのに…』
そう審神者は思いつつ、しかしその考えは自分を更にみじめにした。
『違う、そんな表面だけの労りはいらない。そんな言葉をもらうために負けたんじゃない…勝たせてあげたかった…私のちからが足りなくて…本当にみんな、ごめん…』
無念でそう思うばかりだった。
全ての対戦が終わりみながほぼ無言で帰り支度をして部屋を出ていき、最後に残ったのは審神者たちだった。
「さ、帰ろうか」
歌仙が立ち上がり他の男士も立ち上がるが審神者は座ったままだった。
「璃杏さん?」
鯰尾が話しかけると審神者は我慢していたものが噴き出て、ぼろぼろと泣き出した。
「ご…ごめん…私が…ダメ審神者だから…能力…低いから…勝たせて…あげられなかった…嫌な思いさせて…本当にごめん…」