第7章 あげるから、もらって《松野千冬》●
「わああっ、きれい!」
焼きそば、わたあめ、たこ焼き、チョコバナナ、りんご飴。
定番の物を分け合いながら食べて腹が膨れた頃、待ちに待った花火が夜空に打ち上げられた。
4人でなるべく離れないように空いている場所へ行って、次々打ちあがる花火を見上げる。
喜びの歓声をあげる彼女二人と相棒の声に少しだけ笑いながら、ふとあることを思い出して、繋いでいた蛍の手をくいっと引っ張るように合図をした。
花火を見るために見開いていた目をそのままオレに向けて、首を傾げる蛍。
花火の音で声がかき消されないように、耳元に口を寄せた。
「言うの忘れてたわ」
「なぁに?」
「浴衣、すげぇ可愛い」
似合ってる、髪も。と言って、人の波に揉まれて少しだけ解れた髪をひと房だけ指に絡める。
白、青、黄色、ピンク、赤、緑…花火のいろんな色で染まる蛍の顔。
でも、花火の色とは関係なく、火照る意味で赤くなっているのがわかった。
ドンッ、と響く花火の音で、蛍の声は聞こえなかったけど…僅かに開いた口が「ありがとう」と言っていて。
どういたしまして、の意味を込めて、口を寄せていた耳にそのままちゅ、とキスをする。
ピクッと肩を揺らした直後、今度は蛍がゆっくりとオレの耳元に口を寄せてくる。
なんだ、キスしてくれんのか?と思ったけど……予想以上の言葉に心臓が止まりかけた。
「ねぇ、千冬」
「ん?」
「…今日、ね?…お父さんとお母さん、家にいないの」
「え」
思わず蛍の顔を見ようとすれば、見られないようにオレの肩に顔を埋めてしまった。
ドクドク、心臓がうるさい。
花火の音で聞こえはしないだろうけど、顔が熱い。
そんな、そんな言い方…いや、なんか違う意味かもしんねぇし、変に期待しても良くない。
確認、しないことには……
「そんな言い方だと、勘違いするけど……いいの」
「…勘違いじゃ、ないから…いい」
オレの手に指を絡ませて、親指の付け根をすりすりと擦られる。
本気、みたいだ。
「タケミっち、オレら先帰るわ」
「え、もう?始まったばっかなのに」
「おう、ちょっと用事あっから」
またダブルデートしよう〜!と笑顔で手を振る二人と別れ、自転車置き場へ向かった。