第7章 あげるから、もらって《松野千冬》●
「すすすみません!!!」と直角で頭を下げたその男は、言い訳がましく「まさか松野さんの女だとは知らなくて…!!」と地面を見つめたまま喚き出す。
男の後ろで微かに震えている蛍をちらりと一瞥して、男に頭を上げさせた。
「…まあ知らなかったからしょーがねぇけどよ」
「ぅ、はい…」
「とりあえずオレの彼女に触ったから一発は殴らせろ」
「ヒッ」
「松野くん、ありがとう」
「ん。ヒナちゃんは何もされてねぇ?」
「うん、大丈夫!」
「ヒナごめんな、怖かっただろ…」
「ふふ、…うん、少しだけ!」
アイツらは去り、一難去ったということでお祭り気分を味わおうと、人の波に4人で紛れ込んだ。
ヒナちゃんはタケミっちと手を繋いで前を歩いている。
オレと蛍は、二人の後ろを歩いているけど……よほど怖かったのか、蛍から声が聞こえてこない。
…それもそうか。
ナンパもそうだけど、知らない男に手首掴まれたら逃げらんないし怖ぇよな。
「蛍、なんか食いたいもんある?」と、オレの腕に絡みついている蛍に聞こうと隣を見れば…頬を染めてオレを見上げていた。
「っえ」
「千冬、…すっごくかっこよかったよ」
「…お、おう」
「オレの女って言ってくれて嬉しかった」
「…ん」
「ありがとう、大好きっ」
はああああ???
天使かよ???
満面の笑みを向けられ、さらにギュッと強く腕に抱きつかれれば…我慢することは不可能なわけで。
「え、んむっ…!?」
「ん…お前が悪いんだからな」
人前、という状況は気にもせず、蛍の手に指を絡ませながら触れるだけのキスをした。
途端に真っ赤になる蛍にニヤリと笑って見せ、少し離れてしまった相棒たちとの距離を縮めようと、絡ませていた手が離れないように握りしめて歩く速度を速める。
「あ、千冬!離れるなよビビったじゃん!!」
「いや離れたくらいでビビんなよ」
「ねぇ蛍、何から食べ…どうしたの?顔真っ赤だよ?」
「なっなんでもない、だいじょぶ!」
ヒナちゃんに顔を覗かれて、慌てて顔の前で手を振る蛍。
顔をそむけ肩を震わせて笑っていれば、蛍は空いている方の手でオレの脇腹に軽く拳をぶつけた。