第7章 あげるから、もらって《松野千冬》●
「二人乗りなんて、初めてかも」
「まじか、…落ちんなよ?」
「ふふ、千冬が落とさないように頑張って」
「はは!どうだかな〜」
自転車の後ろに横向きで乗った蛍は、オレの腹に腕を回してギュッと抱きつく。
背中に柔らかいものが当たって「うっ」と声が出かけて慌てて抑えた。
男友達と二人乗りしたことはあるけど、女子とは初めて。
友達と乗っても抱きつかれることって無かったし、あったらたぶん振り払っていた。
女子…しかも自分の彼女に、目的地に着くまで必然的にずっと抱きつかれるというのは、何ともドキドキする展開。
そうか、女子との二人乗りってこういう感じか。
少女漫画でよく見るシチュエーションを自分が体験するなんて、思ってもみなかった。
「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
「千冬、お風呂入る?入るならお先にどうぞ〜」
「あー、どうすっかな…蛍先入っていいよ」
「そう?」
蛍の自宅に着いて、緊張感のない会話で場をなごます。
オレも蛍も、お互いに緊張しまくっているのはわかりきっているから。
脱衣所へ向かった蛍の背中を見つめながら、リビングにお邪魔してソファーに腰を沈める。
ズボンの後ろポケットに入れていた財布をテーブルに置き、はぁー…と大きくため息を吐き出して、前髪をくしゃっと両手で握って乱した。
「……誘い方めちゃくちゃ可愛かったなー…」
誘うよりも誘われる方がドキドキするんだな。
あの場でがっつかなかったオレを誰か褒めてくれ。
もう一度ため息を吐き出したとき、蛍が向かった脱衣所の方からガタンッという音と小さな悲鳴が聞こえた。
「蛍っ?」
特に何も考えず勝手に体が動いたオレは、脱衣所に走っていってドアを開けてしまい…
当然、きょとんと目を丸くした下着姿の蛍とご対面してしまった。
「え?」
「っあ、悪ぃ」
「ちょッ待って千冬いかないで!!」
慌てて踵を返し、蛍に背を向けて脱衣所を出ようとするオレ。
それを何故か引き止めた蛍は、オレの背中に抱きついてきた。
下着姿のままで。
「…ちょっと、えー、蛍さん?」
「……だ、だめ、」
「いや、…え?」
「行っちゃだめ…っ」