第7章 あげるから、もらって《松野千冬》●
「東側の入口んとこに…あれ電話きた」
目で探しながら連絡を取り合っていれば、蛍から電話がかかってきた。
間を開けずに出れば、どこか緊張している様子の蛍が《もしもし、》と話し始める。
「もしもし、蛍?」
《あの…千冬、できるだけ早く来てほしい…》
「…どした」
《…な、ナンパ、されてて…》
「は?」
《日向が対抗、っていうか、抗議?してくれてるけど…ちょっとやばくなってきて…》
涙声とまではいかないが、少し震えている蛍の声に「すぐ行く」とだけ伝えて電話を切った。
タケミっちの腕を掴んで引っ張り、二人がいるという東側の入口へ急ぐ。
驚くタケミっちに蛍からの電話のことを話せば、苦笑いで頬をかいた。
「ひ、ヒナさん気が強いから…」
「気が強いったって女の子なんだから危ねぇだろ」
焦る気持ちを落ち着かせながら、目的地へたどり着く。
ここも人が多くて混雑している。
でも、キョロキョロと辺りを見渡せば……いた。
いつもと髪型も服装も違うけど、自分の彼女を見つけられないはずもなく。
「千冬痛いって〜!」と泣きそうになっているタケミっちを無言で引っ張りながら、4人の男に囲まれている二人へ近づいた。
「だ、だから彼氏いるんですっ」
「未だに迎え来ねぇってことは〜捨てられたんじゃねぇの?」
「違います!人が多いからなかなか来られないだけでっ」
「ッもう、しつこいです!」
「一緒に回るだけじゃん、少しくらい良いだろ」
「おい」
詰め寄られているだけならまだしも、あろうことか一人の男が蛍の手首を掴んでいた。
ぞわりと鳥肌が立ち、すぐさま男の肩に手を置いてグイッと引っ張れば、「あ?」とイカつい顔で振り返っ…
「は?お前何してんの」
「ッえ、ま、松野さん!??」
振り返った顔をよく見れば、よく知る顔の男だった。
ソイツは、元東京卍會の壱番隊副隊長だったオレの下っ端にあたるヤツで。
たぶん相棒も知ってる。
男を睨んでいると、オレに気づいた蛍が「千冬!」と嬉しそうに笑顔を輝かせる。
ひたすら可愛い。
「オレの女なんだけど」
目を細めていっそう睨みつけた瞬間、ソイツは蛍の手をパッと離してこちらを向くと、勢いよく頭を下げた。