第7章 あげるから、もらって《松野千冬》●
「タケミチ君!」
「ち〜ふゆ!」
「「お祭り行こっ!!」」
せーの、と二人で合わせて、満面の笑みでオレとタケミっちに向かって言う橘日向とオレの彼女、蛍。
目の前に突き出された橘日向の手には、自分の学校から持ってきたのか、今年最後の花火大会を知らせる派手な色合いの広告。
「…へ?」
「え」
自分の彼女からのお誘いが嬉しすぎて、可愛すぎて、頷くことすらできないオレたち。
二学期が始まって一週間も経っていない、ある日の放課後。
タケミっちと雑談しているところへ笑顔を輝かせて走ってきた二人に、ようやくタケミっちが開いた口から声を発した。
オレはまだ整理中だ。
「…えと、花火大会?」
「うん!だって今年の花火大会、タケミチ君と一回も行ってないしっ」
「私は千冬と行ったけど、日向と一緒に行けるの嬉しいなぁって思って!」
「「ねぇ一緒に行こう?」」
「……タケミっち」
「え、うん?」
「行くかぁ」
大好きで、大切な彼女からのお誘いを断れる男がこの世にいるのか?
断れる奴がいるなら顔を見せてほしい。適当に褒めてやるよ。
「やったぁ!」
「私たち浴衣で行くから、待ち合わせは現地ね?」
「ゆっ浴衣…!?」
「おー了解」
ひらひらと手を振って二人で仲良く去っていく後ろ姿に、タケミっちと同時にため息を吐き出す。
なぁ千冬、とゆっくりこちらを向いた相棒の目は、キラキラと輝いていた。
「バイクじゃなくて自転車の方がいーかな?」
「あー…浴衣ならその方がいいかもな」
いわゆる、初めてのダブルデートというやつだ。
タケミっちはワクワクが止まらないらしい。
いやオレもだけど。
…え、何着ていこう?
「タケミっちー、蛍たち着いたって」
「えー…見つかるのこれ…」
花火大会当日、現地集合、ということでオレとタケミっちはそれぞれ自転車でたどり着いた。
連絡を取り合って合流できたものの……今年最後の花火大会、ということもあって、普通の夏祭りより人がごった返している。
川のように流れる人に揉まれ逸れないように、道の脇に寄って待っていれば、蛍からヒナちゃんと現地に着いたという連絡がきて。
でもこんなに人がいる中で、果たして合流できるのだろうか。